彼女が指輪をはずすとき
彼のこの言葉で、俺は全てを察した。
亘さんは藤堂さんの過去を知っていると。
しかも俺よりも前から。

だから彼は、あんなことを言っていたのか。
彼が飲み会の後に、彼女に言った言葉を思い出す。

”時には誰かに頼れ。自分で解決できないことだってある。何でも一人でやろうとするな”

あの言葉は彼女が笑顔の裏に、深い悲しみを抱え込んでいるのを知っていたからなのか。
俺だけしか知らないと思っていた過去を、彼は知っていた。
それは彼女にとって、彼が上司以上であるということだ。
そして彼の真剣な眼差しは物語っている。

彼は藤堂さんのことを好きだと。

彼と比べると、俺は男として勝っているとは思えない。
仕事熱心で真面目で、上からの信頼も厚い。
長身で見た目もすらっとしており、顔立ちも綺麗。
はじめは恐くドライな印象を抱かせるが、クールで大人の色気も持ち合わせていると評判で女性にモテる。

そんな人と俺が彼女につめ寄って、彼女は何の取り柄もない俺を選ぶだろうか。
急に不安に襲われる。

しかし俺が彼女が好きだという気持ちに嘘はない。
たとえ亡くなった彼を忘れられなくとも、彼女が彼と過ごしてきた日々は彼女の一部であって、忘れてほしいだなんて思わない。

確かに芯の通った笑顔が素敵な女性だと思っていたので、彼女の弱い部分を垣間見て驚いた。
驚いたけれど弱い部分を知ったからこそ、俺は知る前より彼女に惹かれたんだ。

「…俺はむしろ、弱い部分を知れて嬉しかったです」

俺はフェンスにもたれかかる亘さんを真っ直ぐ見つめかえす。

「人間誰だって悩みはあるし、弱い部分だってあります。嫌になるどころか、彼女の弱い部分を垣間見て愛しく感じたし、守りたいと思いました」

これが俺の本心であって、彼女への精一杯の気持ちだった。
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