意地悪な片思い
速水 至。29歳。
黒い髪、左分けで所々にある長い髪が、彼の目にかかる。
のぞく左目尻には小さなほくろがあって、身にまとうコーヒーの匂いとか、少しだけ苦い香りが特徴的な大人の人……。
「で?そんな容姿端麗で性格もよくて、社内で噂にもなるほどの人がみのりに告白してきたと。」
「うん……。」
濡れた髪をふこうと頭にかぶっていたタオルを私は肩にかけ、ベッドに腰かけた。
「お願いします!って返事した?」
「す、するわけないじゃん!
御見それしましたって言ってすぐ仕事戻ったよ!」
勢いよく飛び出した言葉と共に、肩にかけていたタオルが勢いよく床へと落ちる。
「勿体なーい。
とりあえず付き合ってみればいいのに。」
今の口調からするに、彼女は電話の向こうで頬を膨らませてるんだろな。
「…私なんかに釣り合わないでしょ。
それにその時しか話したことないし。」
「そうかな~、みのりは考えすぎだよ。
その分これから好きになる可能性だってあるじゃん?
最初から決めつけるのはよくないって~、連絡先だけでも明日聞いてみたら?
話したことないのに、どうして好きになったのかとか理由も気になってるでしょ?」
「う~ん。
そりゃなんで私にそんなこと言ったのか気になってるけど……。」
渋った声を出して一旦言葉を切ると、私はまた口を開いた。
「でもそういう人気の渦中にある人、私が苦手に思ってること遥なら知ってるでしょ?」
やれやれまた始まった、
そう言いたげな短いため息が、携帯の向こうから一つ。
「みのりはそういう子だよね、昔なじみの私はよく知ってる…。
だけどね、
多くの人に好かれているみんながみんな、あの人と同じって訳じゃないよ。 」
彼女の低い声が私の胸の中にずしんと響く。
「まぁそれも昔の話だね。」
私はうん。と短く返事した。
「速水さんのこと苦手に思ってるのは分かったから、対応だけは間違えないようにね。みのりはいろいろ不器用なんだから。」
「……ありがと、遥。」
床に落ちたタオルを私は優しく拾った。