意地悪な片思い
速水さんたちはどんな感じだろう。
話に一区切りついたところで彼らを見ると、内川くんの頬は一層赤くなっていた。
速水さんも一見変わらないように思えるけど、よく見るとほんのり頬に紅がさしてあるようだ。
「はー、やっぱり先輩はお酒強いですね。」
内川くんの頼りない声。
「内川に負ける奴はいねーよ。」
速水さんは口の端を緩め、またお酒をごくっと含む。
「おらもうお酒飲むなよ、酔いすぎだから。」
「あー返してくださいよー!」
無理やり速水さんが取り上げようとしたジョッキを内川くんは自身のほうに寄せた。
「内川くんもうやめた方がいいよ、長嶋さんのお水ちょっと貰ったらどうかな。」
私もつい間に入ってしまう。
ためらいながらも堪忍したのか内川くんは
「…市田さんが言うなら。」
そう言ってジョッキをテーブルに置いた。
「うん。」
空になっていた内川くんのコップに私はお水を注ぐ。
「市田さん僕のお酒飲んでいいですよ。
まだ余裕ありそうですし。」
一気になくなる内川くんのお水。
速水さんには強気だったけど、やっぱりもうきついんだな。
「私は内川くん達よりコップが一回り小さいから。
でも勿体ないし貰うね、まだ飲めるから。」
このまま内川くんの前にお酒を置いていたら意地でも彼飲みそうだし。私はそう思って彼のジョッキをコトンと目の前に移動させた。
「あー飲んだ飲んだ。帰る前にお手洗いっと。」
長嶋さんはそうしている間に食べていたらしい唐揚げを平らげてしまうと席を立った。
内川くんは残っていたあと少しのポテトをもしゃもしゃと食べている。
「内川も行っとけ、この間帰りそれで困ったんだから。」
「大丈夫ですよー。」
「この間もそう言って結局だめだったじゃねーか。」
「はーい。」
しぶしぶ立ち上がった内川くんの背中も見えなくなる。
すっかりお店の中もお客さんが少なくなったようで、入店したときの活気な感じはもうない。たくさん頼んだ注文も、テーブルの上にはちらちらしか残っていないおかずの数々と、開けられたお酒の瓶、それからジョッキ。
いるのは酔いが回り始めた私と、まだ余裕そうな速水さん。
おかしいな、さっきまで表情見れてたはずなのに。
二人きりになった途端、
……見れない。