クール上司の甘すぎ捕獲宣言!
濡れたままの服をどうしようかと思っていると、お店のスタッフが気を利かせてくれて、タオルを持ってきてくれた。とりあえず、それを使わせてもらう。

「会社を出る直前に確認しましたが、やはりこの雨で電車が一時運休しているようです。今、駅に行っても、混雑しています」

課長が窓の外を見ながら言った。

そっか……。それで、ここで休もうと言ったのね。それなら、そうと言ってよ。

体が冷えていたので、ホットコーヒーを二つ頼むと、すぐに出てきた。一口つけると、芳醇な薫りが鼻腔に広がり、少しホッとした気分になる。

「課長、仕事を手伝って頂いてありがとうございました。それに、傘にまで入れて頂いて」

「……大したことではありません」

「……」

ああ、この空気が嫌だ。何か話さなきゃ……共通の話題…………って、何も無い。そもそも接点が無かったわけだし。

唯一の接点は、あの日の神社での出来事くらい。でも、そんな話蒸し返して、気を悪くされてもなぁ……。

すると、先に沈黙を破ったのは課長だった。

「…あの日のことですが」

……課長が自分から掘り下げてきた…。

「君にはちゃんと話そうと思ったんです」

「……いえ、私、本当に誰にも言いませんから。弱味握ったとか、思ってませんし! 課長もわざわざツラいこと、思い出さないで下さい」

「……そんな憐れむような目で見られること自体、心外です。それに、弱味とは? 私がケンカの挙げ句、相手に愛想を尽かされたとでも思ってるんですか?」

「……すっ、すみませんっ」

眼鏡の奥から冷たい光が放たれたようで、私はまるで蛇に睨まれたカエルのように、身を小さくした。

怒ってる……!でも、図星です、ごめんなさい!

そこまで言うのなら、思いきって、「……違うんですか?」と私が尋ねると、課長は小さくため息をついた。

「何で、俺がよく知りもしない女に勝手にフラれたことになってるんだ……」


< 22 / 167 >

この作品をシェア

pagetop