クール上司の甘すぎ捕獲宣言!
だけど、まだこの時はかろうじて、理性の方が勝っていた。

……何か、やめてもらう理由、見つけなきゃ……用事があるから、とか……用事……よう……じ……

あっ!

私は大事なことを思い出し、小野原さんの肩をグッと押した。

「ダ、ダメです……私、この後、用事があって……!」

「……」

「本当なんです……! 午後から、お見舞いに行かないといけなくて……」

「お見舞いに……?」

「はい、昔、お世話になった方なんですけど、両親が行けなくなってしまったので、私が代理で行くことになったんです。だから、もう帰って準備しないと……そういえば、今、何時ですか?」

小野原さんはようやく私から離れた。

見渡すと、テレビボードの上の時計の針は、午前九時を少し回ったところだった。

小野原さんは眼鏡を掛け直して、小さく息を吐き出した。

「すまない……暴走して。怖がらせたな」

「い、いえ……」

触れられた部分がまだ熱を持っている。

「怖くはありません……小野原さんだから……。ただ、ちょっとビックリして」

私がそう言うと、小野原さんは少し驚いたような顔をしたけど、すぐにスッと目を細めた。

「俺だから怖くない、か……。そんな可愛いこと言われたら、次は止まれる自信が無いな」

「……っ」

しまった、余計なこと言っちゃった……。

「とりあえず、コーヒーでもいれるよ。それぐらいの時間はあるか?」

「はい。あ、手伝います」

私はキッチンに向かう小野原さんに続いた。







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