クール上司の甘すぎ捕獲宣言!
廊下を進む足音がこちらに近付いてくる。

和室のふすまが開いて、背の高い青年が姿を見せた。

……誰?

と問うより早く、その青年は私の横にやって来て、腰を下ろした。

「香奈ちゃん、久しぶり」

「え……トモくん?」

そうだよ、とトモくん――谷山智之が爽やかな笑顔で言う。

「あ、ごめん!一瞬誰か分からなくて。すごく背が伸びて大人っぽくなってたから」

「香奈ちゃん、面白いこと言うなぁ。俺、もう大人だよ」

「そう……だね」

びっくりした……。中学生のトモくんは、まだ私より背が低かったから、長年会ってないうちに、大きくなったんだな……。

「智之も帰ってきたし、ちょっと早いけど、夕飯にしましょう。香奈ちゃん、食べていってちょうだいね」

おばさんが、立ち上がる。

「いえ、そんなお構い無く……」

「いやいや、香奈ちゃん、是非そうしていきなさい」

おじさんにもすすめられ、せっかくのご好意を無下にはすることは出来ず、今回はご馳走になることにした。




テーブルに沢山の料理が並ぶ。和食が中心で、どれもおいしい。一人暮らしなので、こうして誰かの手の込んだ料理を食べられるのが嬉しい。

箸を進めながら、思い出話や昔の話に花が咲く。そして、お互いの家族の近況を伝え合った。

「香奈ちゃんは今OLさんだっけ?」

トモくんが尋ねる。

「うん。転職してまだ一年たってないんだけど、何かとやってるよ。トモくんも土曜日もお仕事なんて、忙しいんだね」

「うん。俺、一応社長だから」

「ええっ!?」

予想もしてなかったカミングアウトに、大きな声が出る。

「まあ、社長といっても、社員数名の小さな会社だけどね。IT関係の会社を立ち上げたんだ」

「すごい……」

「頑張ってくれてる社員のために、土日祝日だろうと、俺がもっと頑張らないとね」

そう言うトモくんの顔は、もう少年の面影を残していなかった。

大人になったんだな……。

「こんな調子だから、智之には彼女もいなくてね。結婚もいつになることやら」

ややお酒に酔ったおじさんが、話に入ってきた。

「香奈ちゃんみたいな子が、お嫁に来てくれたら嬉しいんだけどね」


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