婚前同居~イジワル御曹司とひとつ屋根の下~
「……慣れるわけないじゃない。樹さんにされることなら、なんだって嬉しいのに……」


自分でも『マゾだ』と思うようなことを呟いてから、私はテーブルに突っ伏して、頬を擦り付けた。
冷たく固い感触が、とても気持ちよく感じる。


樹さんにされるちょっと際どい意地悪は、彼に恋する私にとって本来嬉しいもの。
だけど素直に受け止められないのは、樹さんがどういうつもりかわかってるから。


三ヵ月のお試し同居は、樹さんも言ってた通り、ただの時間稼ぎだ。
自分の意志で断れない政略結婚を受け入れる心の準備が必要だから。


私がこのまま逃げなければ、三ヵ月経過してお試し同居を解消する時、樹さんは『与えられた私』を大事にしてくれる。
彼の宝物にしてくれる。
――その決意を固めようとしているだけ。


私に仕掛ける際どい意地悪は、そうやって外堀から固めているだけで、彼の心はどこにもない。
そうわかってるから、嬉しいのに切なくて。
苦しいのにドキドキしてしまうから、自分でも困っているのだ。


そんな抜け殻みたいな心でで大事にして欲しくない。
だから私は樹さんに恋をしてもらわないといけない。
私は彼を落とさなきゃいけないのに……。


「私には無理だよお……」


こんなにどっぷり樹さんに堕ちきってる私が、どうやって樹さんを。
なんとも八方塞がりな気分で、私は重い溜め息をついた。
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