婚前同居~イジワル御曹司とひとつ屋根の下~
他の先輩たちが出勤してくる前に、樹さんと話せるかも、と思っていた。
なのに、始業時間を過ぎても樹さんはオフィスに現れない。
隣の席の青木さんも、この時間になってもまだ出社していない。


なんとなくソワソワしながら樹さんのデスクを眺めた時、チーム主任から全員に同報メールが届いた。


『春海チームリーダーは、今日からしばらくの間、社長任務の補佐に就くそうです。リーダー不在の間、私が権限代行します』


――え……?


なんのことだか意味がわからず、パソコンモニターに身を乗り出し、メールを凝視していた私の隣で、ガタンと音がした。
ハッとして顔を上げると、「おはよう」と短い挨拶を掛けられた。


「……あっ……」


隣のデスクに、青木さんが荷物を置いているところだった。
チラッと向けられる視線に、一瞬にして背筋が伸びる感覚がする。


そうだ。樹さんのことで頭がいっぱいですっかり忘れていたけれど。
昨夜青木さんに感じた醜い疑惑が、今更ながら心に蘇ってくる。


顔を強張らせた私を見ても、青木さんの表情は変わらない。
私の視線を横から受け止めながら、青木さんはいつもと変わらない様子でパソコンを起動させた。


「電車が人身事故で遅れちゃってね~。参った参った」
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