婚前同居~イジワル御曹司とひとつ屋根の下~
樹さんは小首を傾げて涼しい目でバスタオル一枚の私を見つめている。


「っ……」


ズバッと意地悪に言い当てられて、私は慌てて樹さんからしっかり顔を背けた。
途端に、彼がはあっと大きな溜め息をついて立ち上がる気配を感じた。


「安心しろ。俺、今んとこ処女に興味ないし。お前相手なら魔が差すことなく穏便に三ヵ月過ごせそうだ」


よかったよかった、と歌うような節をつけて言いながら、樹さんは私に背を向け脱衣所のドアに向かう。
その背をただ呆然と見つめるだけで、私は声を掛けることも出来ず……。


「あ」


短い一言を呟いて、樹さんはドアを開けながら私を肩越しに振り返った。
再び向けられる視線に全身が強張るのを感じる私に。


「服着たら、風呂のルール、決めとこう」


素っ気なくそれだけ言いおいて、後ろ手にドアを閉め、樹さんは出て行ってしまった。


取り残された私は、バスタオル一枚のしどけない姿でしゃがみ込んだまま……。


「ひっ……人の裸全部見ておいて、それだけっ……!?」


今更ながら、カアッと頬が熱くなるのを感じる。
あまりの恥ずかしさと悔しさで、ドンドンドンと床を拳で叩くことしか出来ずに。


「っくしゅっ……」


お風呂でせっかくあったまった身体は速攻で冷えて、私は小さなくしゃみを漏らした。
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