婚前同居~イジワル御曹司とひとつ屋根の下~
付け合わせもなにか趣向を凝らして……と、ウキウキのせいで妄想だけが暴走し……。


「……はっ」


鶏肉をまな板に置いて塩コショウをしようとしていた自分に、ハッと我に返った。


ダメダメ。
樹さん、『またボーッとしてきた』って言ってたのに!
今日は大人しく胃に優しいお粥に留めておくべき!!


「き、きっと絶対! 回復しても、食べてくれる……はず……!」


今まで樹さんとの関係に自信を持てる要素がなにもなかったおかげで、絶対の強気にはなれなかったけれど……。


「……少しだけ、期待しても、いいのかな……」


キッチン台に両手を突き、はあっと大きくこうべを垂れて息をついた。


昨夜のだって。
樹さんにとっては『キス』じゃなくても。
ただ私を傷付ける為の意地悪でしかなかったとしても。


あんなに優しくキスされたら、ドキドキするしきゅんとする。
ときめきばかりが強くなり、やり場のない想いでも期待したくなる。
……夢見てしまった。


なのに、熱で弱った樹さんの言葉は、私の無謀な期待の後押しをする。


その後……。
レンゲ片手に『ふーふー、あ~ん』は冷たい瞳と無言で拒否られたけれど。
なんとなく……今までのどんなアプローチよりも、樹さんに近付けた、そんな気がした。
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