婚前同居~イジワル御曹司とひとつ屋根の下~
「すみません……」


樹さんの赤字に目を走らせながら、肩を徐々に縮こませていく。
自分の不甲斐なさが身に沁みてきて、ガッカリしながら謝ると、樹さんは表情も変えずにシレッと続けた。


「それ、続き頼んでいい?」


組んだ指を解き頬杖をつく樹さんの言葉の意味がわからず、私の返事のタイミングは一瞬遅れた。
大きく目を丸めて「え?」と聞き返すと、樹さんはただ私の手のプリントを顎でしゃくって示す。


「それ。時間やるから、最後まで作って」


はっきりと言葉で説明されて、私は何度も瞬きしてしまった。


「えっ……わ、私でいいんですか!?」


信じられない樹さんの命令に、一瞬興奮のあまりどもってしまった。
私の反応に、樹さんは眉を寄せる。


「お前も、仕事しに来てる社員だろ。それともなに? やっぱり半年経ってもやる気のない、腰掛けの給料泥棒か?」

「い、いえいえいえ! 初対面で樹さんに怒られてからは、私だって頑張って……」

「でも、半年経つのにいつまでもコピー機が一番仲良しじゃ、こっちも困るわけ。とりあえず、給料の分だけでも仕事こなしてもらわないと、ってね」


今まで他にまともな仕事を振ってくれなかったのは樹さんじゃないか!と抗議したい気持ちは飲み込んだ。
そんなことより、今はただ嬉しい。
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