どん底女と救世主。


なんとか思いが通じ会った私たちだけど、日々の生活はあまり変わらない。


とはいえ、変わったこともある。


たとえば、ソファに座るときの距離とか。
課長の寝室が、私の寝室にもなったこととか。


それと、

「咲」

呼び方とか。

でもこれは未だにくすぐったくて、なんだか慣れない。


「なんですか、課長」

「お前な、その呼び方直せと言ってるだろ。その敬語も」

「うー…」


こればっかりは、部下歴が長すぎてなかなか出来ない…。


「また10回くらい繰り返してみるか?」


その言葉に、一瞬ハテナマークが浮かんだけど、そういえば前にどうしても『主任』と呼んでしまうから正すために『課長』を連呼したことがあったな、と思い出す。

でもさすがに、課長の下の名前を連呼するのはちょっとな。


「まあ、追い追いでいいけどな。先は長いしな」


珍しく、厳しくない甘い言い方の課長は泡のなくなったビールを煽った。


ああ、こういう時間が穏やかで好きだ。
ずっと、ずっと続いて欲しいと思う。



テレビの中ではついに除夜の鐘が鳴らされ始めた。
新しい年がくるまで、あと少し。


来年も、再来年もその先も、ずっとあなたのそばに。


これからもよろしくお願いします。

ね、私の救世主さま。





どん底女と救世主。【完】


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