パンデルフィーの花びら

「しかし驚いたよ。急に店を閉めるだなんて。どこか具合でも悪いのかい?」

「ーーえ?」


その言葉に逆に驚いて顔を上げたライナは、一瞬目の前が真っ暗になるほどの衝撃を受けた。

心配そうなクレトンと、しばし視線が合う。
その表情を見て、ライナはすべてを理解した。


ーー自分はミレーヌに騙されていたのだ、と。


「……ありがとうございます、ラヴォナさん。体調は大丈夫です。ええと、少し、休もうかと思いまして」


表情に出さずうまく言えただろうか。
クレトンは「今まで休みもほとんど無かったし仕方ない」と諦めたように笑った。
その言葉を聞いて、ライナも違う意味で安堵した。

ライナは、今回の顛末をクレトンに言わなかった。彼が娘を溺愛しているのは知っていたし、こんな話をしてもいい立場ではないことは解っている。
何より、すべてが遅過ぎたのだ。


遠い昔、自分に向けられた年相応の無邪気な笑顔を思い出して、鼻の奥がツンとしびれる。いつからミレーヌは変わってしまったのだろう。幼い頃、ライナの作った花冠を嬉しそうに頭に載せるミレーヌは素直な可愛らしい子だったはずだ。


(ミレーヌさんは私のことをよく思っていないようだし、このままの方がいいのかもしれない)


ライナは大事な思い出を振り切るように席を立った。

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