パンデルフィーの花びら

家に戻っても、ライナの胸の温かさは持続したままだった。やはりセーラの嬉しそうな顔は、何度思い出しても可愛らしいと思う。本人に直接言うと文句を言われそうなので、いつも心の中で思うに留めているが。

ほんの少しでも彼女の役に立てたなら良かった、とライナはそのまま気分良く畑に出て、先ほど途中になってしまっていた花の手入れを再開することにした。

無意識に漏れ出た小さな鼻歌を花に披露しながら、順調に作業を進めていく。
そうしてしばらく続けていると、不意に背中へ声がかけられた。


「お上手ですね」


ライナはその声にびくりと固まり、おそるおそるゆっくりと振り返った。そこには、変わらず優しい雰囲気を携えたイルミスが立っている。いつもより日があいてしまったせいなのか、それとも恋しいと思っていたせいなのか。ライナは、イルミスの声を聞いただけで息が詰まりそうになった。


「う、あっ、イルミスさん……!」

「すみません、ちゃんと声はかけたんですよ」


ライナが夢中で全然気付かないから、と笑顔を向けられた。即興の鼻歌を、よりによってイルミスに聞かれてしまったことが強烈に恥ずかしく、ライナは声も出せないまま真っ赤になって突っ立っている。そんなライナを見て、イルミスは目を細めた。


「久し振りになってしまいました。元気でしたか?」

「は、はい。……あの、イルミスさんは」

「こちらはまあ何とか。……やはり、定期的にライナの顔を見ないと安まりませんね」

「え」


そんな言葉にまた勘違いしそうになり、ライナは慌てて視線を外して俯いた。きっとまたからかっているだけに違いないと思うのだが、そんな気持ちとは裏腹に心臓がドキドキと元気良く動いている。


(落ち着いて。ーー深呼吸、深呼吸)

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