とある国のおとぎ話




「あんな美人に殺されるなら本望なのに、少佐に助けられて、馬車馬のごとく使われるなんて!まさに生き地獄」



「喜楽。そんなに死にたいなら今殺してやるぞ?」



「ちょっ、刃物を人に突きつけるなって教わらなかったんですか!?」



「あいにくだな。喉元にしっかり突きつけて、確実に殺せと教わったものでな」



 ソファーに寝ころびながらも、喜楽の喉元数センチ近くで鈍い銀色が光る。


 寝ているからと言って、外すことはない。


 こいつが大人しく殺されるやつではないこともわかっているが。



「本当に軍人って野蛮ですよね!……いや、嘘ですよ!少佐に助けていただいて感謝しています。今後も誠心誠意お仕えしたく存じます」



「今後は、だろ?とにかく明日は休暇を取る。今から取るなんて言ったら嫌味のオンパレードだな」



 民間出身の最年少で少佐に上った俺には羨望や嫉妬、様々な感情が降り注ぐ。


 ちょっとしたことを大げさに言われることには慣れているが、耳障りなことには変わりない。


 身を起こし頭を掻きむしる俺に、喜楽はにっこりと笑った。



「ご安心を。津上少佐に合わせて休暇届は出させていただきましたから。ね!僕を生かしておいて良かったでしょ?」



 確かに、こいつは今の俺にはなくてはならない存在だ。


 それは認める。


 今回の件もこいつがいなかったら、一週間のわずかな間に結論は導き出せなかった。


 認めるのは癪だが優秀な補佐官でもある。



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