とある国のおとぎ話




こんな世界を生きる価値なんてない。


 汚く濁った世界。


 何もかもが鬱陶しい。


 何もかもが煩わしい。


 そんな世界でも彼女はこの世界を愛している。


 だから、全てを否定することが俺にはできない。


 汚れきった世界、その中でも彼女だけは温かく鮮やかに映るのだ。


 彼女がいるから生きていける。


 迷わずに歩める。


 そう、彼女さえいれば、ずっと。


 願うことも祈ることも役立たず。


 だから、誓ったのだ。


 自分の全てを懸けて守って見せると。


 彼女がいる世界だけが俺に彩りを添えてくれるから。


 そんな彼女に温かく柔らかい世界を届けることができるのなら、この命を何度でも捧げることができる。


 傍にいることなんて望まない。


 だから、せめて、これ以上彼女から何も奪わせたりしないように。


 全てを懸けて、守ってみせる。


 だから、まだ死なない。


 死ねない。




















              【完】

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