年下男子とリビドーと

「もったいないと思うけど……せっかく能力があって認められてるのに」
「わたしに……?」

「だってそうでしょ、この状況。冴木さんグループのエースって呼ばれてますよ」

実は、知ってる。
本当は自信があるけど、ないフリをしてしまう。
謙遜して、裏に隠れている方が楽だから。
それに……。

「わたしは、裏方だから頑張れるんだと思ってた」
「……僕も当然正社員で働いたことがないから、想像でしかないけど……」

成海くんが、何かを切り出した。

「冴木さんが社員にならなかったら、他の派遣さんがなるかもしれない。俺なら、自分は仕事が出来るって自負があるなら、モチベーションというか、失いそうな気がする」

その発言は衝撃的だった。
大学生なんて、社会経験がない子どもだって、どこか舐めていたかもしれない。
この子は、わたしが思うよりずっと大人なのかもしれない。
何事も、決めつけるのは良くないな。わたしの悪い癖かもしれない。
重ねられた手を見つめながら、少し反省する。

すると、その手に力が込められた。

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