もしもの恋となのにの恋

「・・・復讐・・・と言うと?」
俺はできるだけ平然を装い、秋人にそう訊ねてみた。
ドクン・・・ドクン・・・と大きく脈打つ心臓が耳障りで鬱陶しい・・・。
前を走っていた黒のワンボックスカーが赤信号で止まった。
もちろん、その後ろを走っていた俺も車を止めた。
俺はそれをいいことに隣の秋人へと目を向けた。
秋人は俺の視線に気づくとゆっくりとその整った顔を俺へと向けた。
秋人はその整った顔に微かに悲しい笑みを滲ませていた・・・。
本当にこの子は・・・。
そんなに年の違わない同性に『子』は変か・・・。
そんなことを不意に思うと可笑しくて少し笑えた。
「・・・俺と夏喜・・・今、付き合っているんです」
嗚呼、やっぱりそうなんだ・・・。
けれど、秋人に夏喜ちゃんを思う気持ちはないだろう・・・。
秋人が思っているのは今も昔も千鶴だけだ。
なのに・・・だ。
なのに秋人は夏喜ちゃんと付き合うことを決め、選んだ。
恐らく、それ自体が夏喜ちゃんに対する秋人の復讐なのだろう・・・。
夏喜ちゃんは秋人のことが好きだ。
秋人は千鶴のことが好きだ。
秋人は夏喜ちゃんに嘘を吐き、付き合い始めたのだろう。
裏切りによる裏切りの復讐だ・・・。
目には目を。歯には歯を・・・。
そう言った感じの復讐に俺は感じた。
「・・・俺は夏喜のことを何とも思っていない。俺が思っているのは・・・俺が昔から見ているのは千鶴だけ」
秋人のその言葉に俺の胸は抉り取られるような痛みに襲われた。
嗚呼、痛い・・・。
「・・・すみません。宮原さんにこんな話し、するべきじゃないとはわかっているんですけれど・・・」
俺は車を前進させながら首を横に振った。
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