名のない足跡

4.隣合わせの記憶


夢を、見た。





あたしは、気づくと暗い闇の中にいた。


辺りには何もなかった。

人も、建物も。


暗闇を照らす光さえも。



怖くなって叫んだけど、返事は何も返ってこない。


じっとしていたくなくて、駆け出しても、闇はどこまでもあたしを追いかけてくる。


それでも、あたしは力の限り走った。光を求めて。


心は不安でぐちゃぐちゃで、けど、不思議と涙は出なかった。



ふと、目の前に光が見えたような気がして、胸が躍る。


よかった。やっぱり光はあったよ。


あたしは最後の力を振り絞って、光に向かって走った。



小さな光に触れると、そこは、あたしの大好きな国に変わった。


父様、母様、兄様…みんないて、あたしに手を振ってくれてる。


あたしも笑って手を振って、足を一歩踏み出そうとした。



誰かに手を掴まれて、振り返る。


あたしの後ろはまだ闇で、ライトはそこにいた。


ライトは何も言わずに後ろを向き、闇へと歩き出した。



光には、大好きな父様たち。


闇には、大好きなライト。


どっちも選べず戸惑うあたしに、ライトは小さく一言呟いて、闇に溶けた。





あたしは、そのとき静かに涙を流した。



< 183 / 325 >

この作品をシェア

pagetop