君じゃなければ


私と郁が姉弟の関係である事。


それは学校ではあまり知られていない事だった。

特別秘密にしているわけでもない。

いつかは知れる事なのだから。

だからと言って、わざわざ言いふらす事でもなくて…

口にしなければ案外誰も気づかないものだった。


名字も違ければ、校舎も違い、顔も似ているとは言い難い。


郁はどんなハンデを背負っていても輝いていて…

私は良くも悪くも平凡だ。




地味子(じみこ)。



陰でギャル系の子達からそう呼ばれている。

自分は派手な方ではない。

けど、地味な方でもない。


そんな私が地味子なんて呼ばれるのは……



『ちょっと邪魔なんだけど。』



イジメ…という程のものではないが、私への当たりは強かった。


『あ、ごめん。』

『ったく、地味子の癖に場所とんなっつーの。』



彼女達の機嫌を損ねてしまったらしい。

何をしたか全く心当たりはないのだけど。



『ねぇ、大丈夫?』


同じクラスの子が心配そうに声をかけてくれた。


飯田佐枝子(いいださえこ)。


おしゃべり好きで、流行り好き。

転校してきてからずっと、何かと世話を焼いてくれる子だった。


『うん。大丈夫だよ。』


『あー…別の所で話さない?』


『……?うん…いいよ。』



なんだろう。別の所で話なんて……。

私は飯田さんの後ろをついて歩いた。


キョロキョロと周りを見ながら歩く彼女。

どう見ても不審者だった。


『ここなら……うん、大丈夫ね。』


彼女は何度も周りを確認し、ようやく足を止めた。

彼女に連れてこられたのは、誰も通らない数学の準備室の前。

ここに何の用があるのだろう。

午後からの授業は数学に変更になったのだろうか。


『先生に何か頼まれたの?』

『違うわよ!ここでしか……話せない事!』


ここでしか……?

飯田さんは再度周りをキョロキョロと確認した。



『櫻田さん…最近、緑川さん達から目を付けられてるでしょ?』


飯田さんが言う緑川さんとは、同じクラスのギャル系の子の名前だった。


『あー…そうだね。』

『何で櫻田さんなのか気になって調べたんだけど…』

『え…調べた!?』

『あ、お礼とかいいから、いいから。友達でしょ!』


いや…お礼とかじゃなくて…。

正直、そんな事わざわざしなくてもいいのに。

でも…友達と言われてしまうと、そんな事言えなくて…



『それがさ!調べたら四組の後藤君が原因だったんだって!』



飯田さんが何を言っているのかよく分からなくて、ただただポカンとしていた。
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