【完】確信犯な彼 ≪番外編公開中≫
「……どこかで会って話をするか……」
そう彼がポツリと言う。
そう言われた瞬間、彼の顔が見たくてたまらなくなって、

「……はい……」
そうとっさに答えていた。

その後電話で、待ち合わせ場所を決めて、
お互いにまだ食事を取ってなかったから、
私は彼と先日のホテルのフランス料理店に行くことになった。

ホテルのロビーで待ち合わせして、
彼が来るのを待っていた。

「……佳代……」
そう声を掛けてくる人がいて、
私は一瞬彼かと思うけどその声は明らかに彼の声ではなくて、
「……貴志?」
思わず声を上げてしまう。
そこにいたのは、ホテルの制服を着た、幼馴染の貴志で、
いや、ここは貴志の勤め先だから、彼がいてもおかしくはないのだけど、
「……なんでこんなところに?」
あまり地元の人が来ない場所だから、彼の怪訝そうな声も分かる。
「うん。宮坂先生と会う約束してるから……」
そう私が言うと、彼が一瞬眉をしかめる。

「……ここで何すんだよ?」
ぶっきらぼうに掛けられた言葉に、
「いや、落ち着いて話をできるところっていったら、
ここぐらいしか思いつかなくて……」
そう言うと、ああそうか、と一言答える。
「……あの男にあんまり深入りすんなよ?」
一瞬不機嫌そうに言って、そのままその場から離れていく。

私はほっと息を吐いて、
時計を見つめる。
そろそろ時間かなと思った瞬間、
トンと背中をたたく手があって、
「待たせたな……」
そう耳元で低い聞きなれた声がする。

「拓海……」
私は彼の姿を見ただけで、涙がうっすら浮いてきてしまいそうで、
思わず私はぎゅっと唇を噛みしめる。
私は彼の顔を見上げる。
その表情が、いつもより厳しくて、引き締まったものに見えるから、
余計不安感が増してしまう。

彼と話すことで、
今までの私たちの関係は変わってしまうんだろうか?
そんな嫌な予感が私を支配している。

もしかしたら、今日連絡するべきじゃなかったかもしれない。
そんな根拠のない不安に押しつぶされそうになりながら、
彼と一緒にフランス料理店に向かった……。
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