【完】確信犯な彼 ≪番外編公開中≫
番外編 とある夫婦の運動会
運動会の空は高く晴れ上がっていた。
光のよく差し込む窓際で、
俺は天気を確認して、大きく伸びをする。

何よりも、この面倒な準備を
もう一度しないで済むことに、
教職員と児童の親たちは
一堂に胸をなでおろしているに違いない。

台所では妻があたふたと弁当の支度をしている。
島の運動会のように、教職員までそろって弁当を
外で食べることはないのだと言ったのだけど
どっちにせよ、自分たちが
運動会気分を味わいたいのだと言って聞かない。

まあ、なんだかんだと付き合いのいい
シスコン気味の義弟が
一緒についてきてくれるらしいから、
そこらへんは安心しているが。

「……美味そうだな……」
から揚げに、卵焼き、煮物に、巻きずしとお稲荷さんの、
スタンダードだが、手の込んだ弁当を見て、
思わず声を掛けた。

「だったら、拓海さんも一緒に食べたらいいのにっ」
一瞬、すねたような言い方をする佳代の腰に手を回し、
「……まあ、顔を出せたらな」
その長い髪に縁どられた額にキスを落とす。

バサリ……新聞の落ちる音がして、後を振り向くと。

「どんだけ朝からラブラブしてんだよっ。このくそ新婚夫婦」
わざとらしく落とした新聞を拾いながら、
隼大がため息をつく。

以前に比べ身長が伸び、声が低く太くなり、
誰がどう見ても、大人の域に足を突っ込みつつある。
高校一年生の春、こいつの進学に合わせて、
島からこっちに移動願いを出した。
ということで、相変わらずの同居生活だ。

「うるせぇ、飢えた青少年っ
悔しかったらさっさと彼女作れ!」
見られた気恥ずかしさもあって、
即、言い返すと、隼大は胸に手を当てて、
芝居がかった様子でその場に崩れ落ちる。

「ハートブレーカーになんて台詞だっ」
春にこちらに出てきたせいで、
中学時代に付き合っていた彼女と別れたばかりだから、
すこしは堪えたらしい。

「もうふざけてないで、隼大も出かける準備して。
姉ちゃん、これ詰め終わったら、拓海さんの学校行くし」

そう言いながら、佳代はエプロンを外し、
俺の口にお稲荷を一つ放り込んで、

「美味しいでしょ?」
ふふっと自慢げに笑って、長い髪を解き、
俺の横を通り過ぎていく。
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