【完】確信犯な彼 ≪番外編公開中≫
深まる季節と恋心
お盆休みが明けて、病院が始まったころ、
病院に宮坂先生がやってくる。

すでにもう熱は下がっていたようだけど、
私が彼を見かけると、照れ隠しをするように
「佳代が煩く言うからな……」
ちゃんと病院に来たぞ、と言って、鋭い瞳を細めて笑った。

私は久しぶりに会ったのが職場である病院だったから、
こないだの事や、千尋と話していたことを思い出して、
一瞬、顔が赤くなりそうになるけど、
必死にそれを抑え込んで、
看護師の顔をしたまま、彼と会話する。

「ちゃんと病院に来てもらってよかったです」
そう言うと、彼は照れくさそうに小さく笑って、

「こないだは悪かったな……」
それが何について言っているのか、
私には正直よくわからない。
世話を掛けた、ということなのか、
それとも、あんなことをしてしまったということなのか。
そもそも彼自身があの体調で、
どこまで先日のことを覚えているかわからない。
なのでとりあえず、私は前者ということにして、

「まあ、先生にはいつもお世話になってますから」
そう、少しだけ他人行儀に頭を下げる。

すると、先生は私の耳元に一瞬唇を寄せる。
「いや、真面目にちゃんと礼をするつもりだから、
何か欲しいものとか、考えておけよ……」

職場で周りに聞かせるような話じゃないから、
きっと耳打ちなんてするんだろうけど、
そんなことだって、胸がきゅんと締め付けられる。

耳朶に触れる声が心地よくて、
もともと、彼の声は最初から好きだって、
良い声だなって、思ってたんだっけ。

そんなことをぼうっと考えていて、
一瞬彼が不思議そうな顔をして、私を見る。
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