マイノリティーな彼との恋愛法


「振られるにしても、ちゃんと振られないと踏ん切りつけられないよ?」


渚は何も間違ったことなんか言っていない。
きちんと好きだと伝えて、きちんと振られる(振られる前提で言いたくないんだけど)ことがどれだけ大切かは、さすがの私でも分かる。

でも、自分から連絡するのは勇気がいる。
またあの女の子が電話に出たら、いくらなんでも立ち直れなさそうで怖い。


学生時代の方が、まだマシな恋愛をしていたような気がする。

好きになったら積極的にアプローチして、何度かデートしたら好きだと伝えていた。それは相手の男の子も同じことで、お互いに両想いなんじゃないかってどこかで通じ合っていて。

振られることを前提になんてすることなく告白していたのだ。


大人になってからの方が、恋愛は難しい。

酸いも甘いもほぼ分かっていて、働いているから自由に使えるお金があって、恋愛に対する考えも確立している。

だからこそ、それを踏まえて付き合うのは難しい。


「ごちゃごちゃ考えちゃダメよ」


私の頭の中を見透かしたみたいに渚が持っていた箸で、見えない何かをしっしっと追い払う。
悪霊退散とでも言いたげに。


「あんなに理想のタイプがどうたらこうたら言ってたひばりが、現実に目を向けた大事な一歩なんだから。…………応援してる」

「渚…………ありがと」


好きだなんて、言える日が来るのかな。
ヤツが私を好きだと言ってくれる日なんて来るのかな。

遠い遠い未来の、いやむしろ夢のような出来事に思えてしまって、胸がズキンと痛くなった。


初めて神宮寺くんが感情をあらわにした、あの時のことがフラッシュバックする。


『使い捨てのつもりでなんか、俺は使ってない!』


表情はいつもとさして変わらなかったけど、取り巻く雰囲気が怒っていた。それに、語気を強めて話しているのも初めて聞いた。

どうして怒ったりなんかしたの?

あれはどんな意味を込めて言ったのかな……。






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