【完】悪名高い高嶺の花の素顔は、一途で、恋愛初心者で。


たくさんのときめきに襲われて、胸が高鳴るのを抑えられなかった。


那月君は、運転が上手だ。

ブレーキは反動がないほどゆっくりと踏んでくれるし、他愛もない会話をしながら片手でハンドルを握る余裕さえ見える。

そして、駐車場にはきっちりと一発で駐車するという鉄板運転スキルも兼ね揃えているみたい。


左側のスペースを広く開けてくれているのも計算だとしたら、もう叫びたいほどかっこいい。

なんて紳士なんだろう。知れば知るほど素敵で、はぁ……と心の中でため息をこぼした。


車を降りて少し歩くと、「ここです」と言った那月君の声に驚いて、足を止めた。


……え?


「ここ、知ってます……」


目の前にある料理店は、雑誌やテレビで取り上げられるほど有名な老舗和食店だった。


「来たことありました?」


少し焦った様子の那月君に、首を横に振る。


「いえ。一度来てみたいとは思っていたんですけど、予約が取れなくて……」


三ヶ月待ちとも、半年待ちとも聞いたことがある。私も何度か試みたけれど、今は予約が取れないと断られてしまった。

私の反応に、那月くんはほっと安堵の息を吐いた。


「よかったです。先輩は和食好きって聞いていたので」

「え?いつ?」

「確か、俺が入社してすぐくらいに。駅前の洋食店のプロジェクトをしていた時、和食が好きで、洋食にはあまり詳しくないって」


……驚いた。


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