イジワル副社長と秘密のロマンス

彼が笑みを浮かべた。

彼らしい小悪魔的な微笑みを浮かべているのに、声はとろけそうなくらい甘くて、私の鼓動をいたずらに加速させていく。

くれた言葉が嬉しくて、嬉しすぎて、胸がいっぱいになっていく。

この喜びを伝えたいのに、もどかしいくらいに気の利いた返事が浮かんでこなくて、私はこくりと頷き返すしかできなかった。

それでも樹君には思いは伝わったみたいだった。

彼と目と目を合わせたまま微笑み合っていると、路肩に車が停車した気配を感じた。

なんと気なしにそちらへと視線を移動すれば、それが高級の国外車だということに気付かされた。

一瞬、樹君のお迎えかと焦ってしまったけれど、すぐに自分の勘違いだと理解する。運転手の男性も、助手席に乗っている女性にも見覚えがなかったからだ。

助手席に乗っている女性が、こちらに目線を向ける。困ったような顔をしたまま、会釈をしてきた。咄嗟に私もお辞儀を返した。

見知らぬ女性ではあるけれど、控えめな色合いのスーツと、真面目そうな様子から、自分と同じ職業の人ではないだろうかと思ってしまう。

うっかり私が失念してしまっているだけで、もしかしたらどこかで顔を合わせているかもしれない。

記憶を掘り返すべく頭をフル回転させていると、私の視線に気づいた樹君が、路肩に停車した車へと顔を向けた。


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