イジワル副社長と秘密のロマンス

彼の美麗な笑みを目の当たりにし、私は慌てて目をそらした。頬が熱くなっていく。

意地が悪そうに笑っているのに、どうしてこうもさまになるのか。彼の魔力は、十年経っても健在だ。胸を熱くさせられてしまう。


「久しぶり」

「……うん」


再会したら、たくさん文句を言いたかったのに、何も言えない。柄にもなく、もじもじしてしまっている自分が恥ずかしい。


「俺のこと、よく覚えてたね」

「そっちこそ! 私のことなんか、とっくの昔に忘れてると思ってたよ!」


そんな諦めの裏側で、私のことを忘れないでいて欲しいと、淡い希望を持ち続けていた。

再会出来たことが嬉しくて、覚えていてくれたことも嬉しくて、気持ちが舞いあがっていく。


「でも……樹君が私のことを覚えていてくれて、嬉しい」


嬉しさを抑えきれなくて、思いが口をついて出てしまった。

途端、顔が熱くなる。身体全部が熱くなっていく。のぼせそう。

樹君は瞳を更に大きくさせたあと、掴んでいた私の腕をそっと離した。


「何言ってんの?」


上昇してきた彼の手が、私の頬に触れる。

ひんやりした指先が、その場の時間を止めた。

驚きで固まったまま彼を見つめ返すと、すぐそばにあった綺麗な瞳がわずかに細められた。

そのまま私に近づいてくる。


「俺が千花を忘れるわけないじゃん」


樹君が私の耳元でそう言った。

低くあまやかな声に肌を撫でられ、身体が微かに痺れた。

彼の唇が弧を描く。

綺麗な色をしたその唇は、私のどこにも触れていないのに、深い口づけをされたような……そんな気持ちになった。









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