月うさぎの戯言
天界
「ばぁか。何で正月でもねーのに餅なんか搗かないといけないんだっつーの」

 すぱーっと何かの茎で出来た煙管を吸う。
 ごろんと寝転んだものの、すぐにころりと横向きになる。
 尻尾があるため、仰向けになれないのだ。

「は~あ。ったく、毎日毎日薬草砕いて、こちとらすっかり薬臭くなっちまったよ。こんな毛皮、誰も買わねーな」

 けけけっと笑い、作務衣の合わせから手を突っ込んで、胸元をぼりぼりと掻く。
 そのだらけまくった後頭部に、いきなりべっしんと衝撃が走った。

「イエ! ったくてめぇは、またさぼって!」

「杵で叩くな! 死ぬだろうが!」

 腰に手を当て杵を担いで仁王立ちしているのは、同僚のナキだ。
 こいつはとにかく弁が立つ。

「今日は特別下が良く見えるからって、ずっと観察してるんじゃねーよ」

「下を見るぐらいしか、やることねーもん」

「金丹作れっつってんだよ」

 ぶん、と遠心力の乗った杵が、イエの鼻先を掠める。
 強い薬草の臭いが、イエの鼻を刺した。

「くっせ! もぅ、杵を顔に向けんなよ!」

「この辺の空気なんざ、もうすっかり薬草フレーバーになってら! いまさら何言ってやがる!」

 ぐりぐりと杵を頬に押し付けられ、イエは悶絶した。
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