aeRial lovErs

シンと静まり返った霊園の墓石の間を歩いていると、音の無い世界に迷い込んだ様な錯覚に錯覚にとらわれる。

墓標が、言葉を失った人の群れの様に整列して、通り過ぎる私をじっと見つめている。

風の無い空気を伝わる太陽の光は、妙に現実味に欠け、目にする物も何処か色褪せて見える気がする。

幼い頃、突然天井がものすごく近くに見えたり、目の前の物が妙に遠くに見えたりする事が有ったのだが、その感覚に似ている。

ただ　シャッ　シャッとゆう自分の足音だけが私を現実に繋ぎ留めるキーの様に響いていた。

道すがら買った花を眺めながらボンヤリと歩ていたら、いつの間にか光の墓が有る区画までたどり着いた。

少しずつ、思い出す事が少なくなっている私を、光は許してくれるだろうか？

静寂の国でたたずむ光の脱け殻に、心の中で問いかけてみても、あの柔らかな声は返って来なかった。

「三島くん？」

突然声をかけられて私はビクリとする。

結構な間ボンヤリしていた様だ。

「ああ、滝沢さん。」

「いやぁねぇ、もう菱沼になって随分たつわよ。」

目の前で微笑む女性は、菱沼の妻、咲良さんだ。

「私も、お花いいかしら？」

咲良さんは手にした花を軽く持ち上げる。

「お願いします。」

道を開けると、咲良さんは、墓に花を供えて、手を合わせた。

咲良さんも、菱沼と結婚するまでは基地に勤めていて、光とも仲が良かった。

「さて、私はこれで。」

立ち上がった咲良さんに一礼すると不意に表情が曇る。

「三島君も早くしっかりしなきゃ、光も浮かばれないわよ。」

「そうですね、はい。」

「じゃあね。」

ひらりと手を振り立ち去る咲良さんを見送りながら呟く。

「しっかり・・・してるつもりなんだがなぁ。」