たったひとつの恋をください





「七瀬、お待たせー。ごめんね、先生話長くってー」


教室の外で、友達の呼ぶ声。


私ははっとして、慌てて黒板消しでゴシゴシと目の前の文字を消した。


「ん?そんなとこで何してんの?」


ドアからひょっこり顔を覗かせて、友達が首を傾げる。


「あっ、今日、日直だったから!ちょっとこの辺消し跡が残ってて、気になって……っ」


「あはは、真面目だねえ七瀬は」


とっさの言い訳は我ながらひどいものだったけど、笑ってもらえたからよしとする。


「んじゃ、帰ろっか」


「うん、そうだね」


ふう、とそっと息をつく。


ちゃんと消したのをもう一度確認してから、誰もいない教室を後にした。





< 353 / 377 >

この作品をシェア

pagetop