たったひとつの恋をください



何を言われたって、頑なに拒むつもりだったのに。


『そうだっ。じゃあその日は、腕にヨリをかけてティラミス作ってくるから!どお?』


『え……っ』


あっさり、大好物なスイーツの前に陥落してしまったわけで。


気づけばガッチリ胃袋を掴まれてしまっている私。


だってしょうがない。お店のものと比べたって全然劣らないくらい、琴里の作るものは本当においしいから。


普段、手料理なんてあんまり食べ慣れてないから、余計にありがたく思えるのかもしれない。


それにしたって、食べ物で釣られる単純さには、我ながらどうかと思うけど。


……まさか、ティラミス作ってて遅くなったとか言うんじゃないよね?


まさかと思いたいけれど。充分あり得そうな気がして、私は深々とため息をついた。



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