甘めな毒
OMAKE



 遠くから蝉の鳴き声がする。あと一週間もすれば夏休みに突入する私達は、相も変わらず屋上で二人だけのゆったりとしたランチタイムを過ごす。梶くんも以前と変わらず、基本ゲームに夢中だ。


「そういえば、この間貸した姉ちゃんのゲーム、やった?」
「あーうん」
「感想聞いてこいって言われた」
「そうなの?」
「どうだった?」
「えっとね、正直言うとめちゃくちゃ良かった。すごい感動した」
「へー」
「ちなみにお姉さんってさ、どのキャラが好きとか言ってた?」
「んー……確か、黒髪のちょっとひょろいやつ好きって言ってた気がする」
「ああ、やっぱり……」
「なにその反応」
「いや……うん……」



 私がこうして梶くんに言いよどむのには理由がある。

 というのも、遡ること一週間前。梶くんのお姉さんに初めて借りた乙女ゲー『紅華の契り』を中島からゲーム機を借りたその日にさっそくプレイしてみた。
 時代背景は江戸、着物に身を包んだ美しい芸者(男の)達と恋に落ちるというストーリーだった。
 攻略キャラは五人いて、みんなそれぞれ個性があってどのルートもとても面白かった(因みにその時は時間がなかったのでハッピーエンドルートしか見ていない)。

 翌日梶くんからお姉さんにその感想を伝えて貰うと、その翌日にまた新しい乙女ゲーを貸して貰えることになり、それから次々と梶くんのお姉さんオススメの乙女ゲーを攻略していったのだが……。
 進めていくうちに私の中にある疑問が浮かんだ。


「このキャラ、何か梶くんに似てるなあ……。不器用なトコとか、素っ気ないトコとか」


 よくよく思い出してみれば前に借りたゲームにも梶くんに似たキャラがいたような気がする。確かその前も、そのまた前も。
 これは偶然?いや、にしては偶然すぎる。ありえるのだろうか。
 私もそこまで詳しいわけではないけれど、乙女ゲームにおいて人気のキャラであれば似たようなものも多いと聞く。私が知らないだけで梶くんに似たキャラは人気があるのかもしれない。

 けれど一度浮かんでしまった疑問に当てはまる答えがなかなか見つからず、色々と調べて考えすぎた結果昨晩は寝不足。今日になってようやく気になっていた答えが見つかった。梶くんのお姉さんは相当なブラコンであると。


「何?俺に言いづらいこと?」
「うーん……多分これ言ったら梶くんのお姉さんに呪い殺されそう」
「ふーん。で、何?」
「ここまで言ってまだ聞くの!?」


 自分の彼女が呪い殺されるかもしれないのに、なんて薄情な彼氏なんだ!


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