kaleidoscope~snow white's pearl tears~
侮りすぎた、とどこか哀しそうに微笑う薬売り。
やはり彼は善人になりたかったのだ。
純粋な、善人に。




「あの城のお妃様はいま、ある少女を殺すため計画を練っています。六花くんの体調を悪化させ、森から貴女を逃がしたのもそれが理由です」





やはりあのお妃様はまだ、あたしを殺すことを諦めてはいなかったのだ。
恐怖に震える身体を必死に抱いて、薬売りの言葉を待つ。
彼は善人だと信じている。
あたしを、お妃様に差し出すことはしない筈。




「先日少女のもとに刺客が放たれました。六花くんが体調を崩す前、毒林檎売りの少女。覚えていますね?」
「えぇ。儚げで哀しそうな少女だったわ」
「あれは私の娘なのです。貴女を殺せなかったことで、今は城の地下牢に閉じ込められていると聞きました。助け出す手段はありませんか」




あの城の地下牢はとても入りくんだ形をしている。
城の内部を知らない薬売りには無謀な話でしかない。
確かにあたしだってあの少女を助けたいけれど、無謀なものは無謀なのだ。





死ぬ覚悟はあります、と城の見取り図片手に儚く微笑う薬売り。
その作り笑顔にハッとする。
無謀だからって何を迷っているのよあたしは。



彼は確かにあたしと六花を欺いたお人。
でもそれ以前に、あたしの国の国民なのよ。
国民のために命を張れずして、何がプリンセスよ。





「……ひとつだけ、抜け道があるわ」
「本当ですか」
「えぇ。しかしあたしを信じて良いのですか。あたしがいた頃とは城の作りも多少変わっていましょう。何より、六花とあたしを欺いたことを根に持って嘘を教えるかも知れませんよ」




我ながら本当に意地悪だと思う。
彼にはとっくに覚悟はできているのに、それを揺るがすような。
でもこれがあたしの精一杯の仕返しなの。
赦しなさい、薬売り。





「覚えておりませんか。私がまだ新米の薬売りだった頃、貴女のお母様を医者と一緒に看に行ったこと。結局助けることは叶いませんでしたが、貴女はそんな私に笑顔を向けられました。“お母様を最後まで見放さず手当てしてくれてありがとう。貴方のおかげで最後にお母様とじっくり話せたわ”と。ご自身が一番泣きたい筈なのに、私の涙を拭いながら貴女は……!」
「そんなこともありましたね。そうですか、あの時の新米の薬師が貴方だったのね」
「その時誓ったのです。もし貴女に危険が生じたなら貴女を護ってみせる。貴女に従順な国で一番の薬師になってみせると。貴女に謀られるのなら本望ですよ、“林檎様”」


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