クールな公爵様のゆゆしき恋情
「はっきりって?」

それまで黙っていたエステルが話に入って来ました。

これはエステルにも言ってなかった事なので驚いたのでしょう。

嫌な思い出なのであまり言いたく有りませんでしたが仕方有りません。いつまでも私が酷い人だと思われてお兄様に文句を言われるのは困りますから。

私はすうと息を吸いました。そのまま勢いで一気に言います。

「デリアが婚約者だったら良かったのに! と夜会の時に言われました」

「う、嘘?」

エステルが手で口元を押えて呟きます。

お兄様は動揺しながらも、確認する様に言いました。

「デリアってブロスト公爵家の令嬢だよな? ……聞き間違いじゃないのか?」

「いえ。アレクセイ様はデリア様の腰を抱き寄せながら、他の令嬢も沢山居る中ではっきりおっしゃいました。デリアが婚約者だったら良かったのにと」

ここまではっきりと言うとさすがにお兄様も諦めた様です。遠い目をして独り言を言い始めました。

「あいつ……馬鹿だろ?」

なんの事か分かりませんが、エステルはお兄様の言う事は何でも分かってる様で、一緒になってコクコクと頷いています。

少し気になりましたが、アレクセイ様の事をこれ以上話すのは私の精神衛生上良くないようです。

デリア様と寄り添う姿を思い出したら胸がムカムカとしてしまいましたら。

こんな時は気分転換するに限ります。

私は立ち上がり、今だに何かを呟いているお兄様とエステルに言いました。

「少し街を歩いて来ます。エステルはお兄様と過ごしますよね?」

久しぶりに会ったのだから二人きりになりたいでしょう。

思った通りエステルは少し照れたようにしながらも頷きました。

「ちゃんと護衛は付けろよ、日が暮れる前に戻れよ」

いつまでも子供扱いするお兄様に見送られ、私はエンテの街の散策に向かいました。

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