エメラルド・エンゲージ〜罪の葉陰〜
主人と少女





車窓を流れる景色が、ビルの群れから屋根の低い建物に変わり、さらに建物の間に緑が混ざり始める。

都市の中心部を抜けた車は、そろそろ郊外へさしかかるようだ。

「長旅をさせてすまなかったね。もうすぐ君の新しい家に着くからね」

後部座席から窓の外を眺めていた私に、となりに座る人物が声をかける。

私は視線を車内に戻し、彼の方を向いた。

ネイビーのスーツにシルバーのネクタイがよく似合う男性が、私を見てほほえんでいる。

優しげな鳶色の瞳に、同じ色の柔らかそうな髪。

鼻筋の通った顔立ちはなかなかの美男子だ。

組まれた足の長さから、座っていても背が高くスタイルがいいことがよく分かる。

年齢は35だったはずだけれど、まだ20代だといっても通用しそうな雰囲気だ。

私はシルクのワンピースのスカートの上で行儀よく手を重ね、彼に向けて上品に、けれど少女らしく無邪気にも見えるように、ほほえんでみせた。

「はい。とても楽しみですわ、旦那様」

「ああ、私もとても楽しみだよ、リイナ。―――はやく君を、彼女に会わせたい」


そう言って、“旦那様”―――15歳になった私を『原石園』から買い取り、今日から私を所有することになる男、ハルヒコ・カンバラは、私の手に自分の大きな手を重ね、ぎゅっと握りしめた。


***

< 6 / 182 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop