ツンデレ社長の甘い求愛
目が合うと、途端に私の心臓は暴れ出す。

だって社長が目を細め優しい顔で私を見つめてきたから。

「いい心がけだ。……本当、お前のそういう素直なところ好きだぞ」

な、にそれ――。

社長のくせに、どうして優しい言葉を掛けてくれるの? 調子が狂ってしまうじゃない。

しかも『好き』なんて言葉を、軽々しく使うなんて。

「馬場の成長に期待している」

ドキドキし過ぎて言葉が出ない私に構うことなく、社長はポンと私の肩に触れた後、去っていく。

背後に響いていた革靴の音が聞こえなくなっても、私の胸の高鳴りは収まりそうない。

おもむろに胸に手を当てれば、いまだに心臓はバクバクいっていた。

「なんなのよ、社長は」

本当に調子が狂う。

散々今まで罵声を浴びせてきたくせに。

私のことなんて、なにひとつ知らないでズケズケと言いたいことを言ってきたくせに。

それなのに、こんなのズルイ。

私は恐る恐るドアを開けてきた松島主任に声を掛けられるまで、その場に立ち尽くしてしまっていた。
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