好きになるまで待ってなんていられない
−逢瀬−


【成美、珍しいな、休むなんて。大丈夫なのか?明日は出て欲しいんだが。 藤木】

え?社長…、メール、返信して来るなんて珍しい…。

【急にすみませんでした。明日は大丈夫だと思います、多分。 成美】

【多分?まあいい。無理すんな。ゆっくり休めよ】

【有難うございます】


…驚いた。余程、手が空いていたんだ。

社長と私は歳が近い。勿論社長が年上。

社長が会社を興して直ぐくらいの時期。事務員募集っていうのを見て、…雇って貰って以来、長く勤務している。
当初は朝からの当たり前の勤務だったが、…紆余曲折を経て、今は午後から夜までの勤務になっていた。
社長は悪い人ではないと思うが、口調が少々きつい事もあり、人物を理解してない内は誤解されやすい人だと思う。決してハラスメントだとは思わないが、お互い体育会系という事もあり、距離感は初めから近い気がした。

【一人だからって、飯、適当に食ってんだろ】

また来た…余程暇なんだな。

【そうですね。愛妻が居らっしゃる社長が羨ましいです。成美】

【当たり前だ。俺は愛されてもいるんだ】

はい、はい。…そうでしたね。またも愛妻アピールか…。

…。

【すみませ〜ん。もう、横になりたいので失礼します。成美】

【すまん、充分休んでくれ。明日、頼む】

…フ。仕事してください、社長。強引にこっちから終わらせてやった。…はぁ。
仕事の書類関係に関しては、どこかすっかり頼られている気がする。

はぁ…思えばよく辞めずに続けてるな、私。
我ながら……偉い。

…。

偉いよ…。



あ。ぁ…。やだ、眠ってた。
…まだ少し怠い。

ぇ…幻?まだ寝ぼけてる?目を擦った。

「おい、昼飯持って来たぞ。食ってないだろ朝から」

…え。

「あ…夢じゃないの…本物?」

「フ、ああ。本物だ。手、合わすなよ?仕事、休んだのか」

「…うん。これってずる休みに近いかな」

抱き抱えるように起こされた。

「…あ。熱っぽいな…怠いか?これじゃあ怠いよな。…悪かったな。昼過ぎになっても足音が下りて来ないから来てみた」

「あ、どうやって入ったの?鍵は?」

「あぁ、入れとくつもりが、掛けてうっかり持って下りてたんだ。だけど、どうせ下で会うだろうと思って、そのまま持ってた。あるはずのドアポストになかったら、あんたの事だから、凄い剣幕で取りに来るだろ?」

「はい、間違いなく。でもスペアはあるから、困りはしないけど。あ、でも、やっぱり押しかけたかも。要るんだからって」

「だろ?昼からの予約があるから時間が無い。もう戻らなきゃいけない。
横になってたら楽になってくると思うから寝てるといい。安静にな?…フ、顔色はいいな」

頬に手を当てられた。
あ、何よ、…もう。
熱っぽくて怠いのも、顔色がいいのも、善くも悪くも貴方の責任、貴方がした事でしょ?
もうこれ以上触らないで…、熱が振り返すから。

「鍵、テーブルに置いとくから、出たら鍵してくれ」

「解りました」

「じゃあな。あんた…、こんな格好もするんだな」

え?

あ、馬鹿馬鹿、うっかりしてた。
短めのワンピース型のルームウェアだったんだ。どうせ…年甲斐もなくって思ったんでしょ?
だって寝る時楽なんだもん。

「今時間が無いのが残念だ。この格好、誘惑されてるようなもんなのに。また、夜来る」

ツンと胸を指で突かれた。やっ。えっ?はぁ?ちょっと!!
誘惑?…あ、あ゙、…ノーブラだった…。


カチャン。ガチャ。
…って、鍵してる。置いて行ってないじゃん。

…。

えっ。ドアポストにも入れないの?
また持って行ったじゃない…。
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