お口にクダサイ~記憶の中のフレグランス~
「秋芳洞だけじゃないけど、鍾乳洞の天井からつららみたいに垂れ下がってる鍾乳石って、1センチ伸びるのに何百年とかかかるんでしょ?」

「うん。結構幅があって、中にはそれこそ何千年とかかかるのもあるんだって」

「私と先生が出会って、一緒の時間を過ごす間って鍾乳石だと、伸びても目に見えないくらいの成長なのかな?」

「うん。そうだよ。そう考えると余計に大切にしたいと思うよ」先生は繋いでいた手を握り返してくれた。

「あ、私の手、汗ばんでるよね」掌の汗がなんだか恥ずかしくて、思わず引っ込めようとした。

「もしこの時間が本当に刹那ほどしかないなら、僕は汗ばんだ君の手も覚えておきたいから離さないよ」

覚えておきたいから・・・私たちが、いつか終わる前提で、先生は口にしたのだろうか。そうは思いたくはなかった。

何も言わずに私は先生に身を寄せ、汗ばんだその手で私も先生の手を握り返した。
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