Open Heart〜密やかに たおやかに〜


何か話があるのかと、降りてきた山田課長を見上げた。

「……」
山田課長は何も言ってこないで、ジッと私を見おろしている。

「あの、何か話でも?」

「話っていうか、俺さ、あんたに王子が惚れた理由がようやくわかりかけてきたところ」

「は?」
訳がわからない男だ。
一体何を言いたいのだろう。

睨むようにした私の両肩を手でがっしりと掴んできた山田課長。

「こんな強気な町娘だから、王子も興味を持ったんだろうな。それに」

山田課長のメガネの奥に光る鋭い瞳が、私の心を貫くように射抜いていた。

「それに、あんたってさ、哀しいくらいに一途な女なんだな。俺の方が泣けてくるよ」

山田課長に私の気持ちなんかわからない。わかるはずもない。

「私のことを知ってるみたいに言わないで下さい。何も知らないくせに」

「知らないよ。知りたくもない。あんたは、ただの町娘なんだから」

「それなら、さっさと帰ってくださいよ。タクシー待たせてないで」

「ああ、わかってる。さっさと帰らせたいなら……」

山田課長は、言葉を切り顔を近づけて私の顔を覗き込んでくる。

「な、なんですか!」

「帰らせたいなら、そんな顔を俺に見せるな」

「そんな顔?」

「ああ、今にも泣きそうな顔はやめろ」

「関係ないでしょう?! 私はやりきったんだから。ちゃんと、演じたでしょう?シュウちゃんの前では、二度と泣きませんから心配しないでもらえませんか!」
高ぶる感情を抑えきれずに、涙があふれそうだ。でも、絶対に泣きたくない。
それに山田課長に弱気な私を見せたくなかった。

ぐっと涙を我慢したせいで、鼻水が出てきた。

ズルズルッと鼻水をすすり、山田課長を睨むように見た。
「私、泣きませんから。山田課長には迷惑かけません。だから、それでい…」
言い終わらないうちに、私は山田課長に抱きしめられていた。

なに?

一体これは、どういうこと?

訳がわからずに山田課長の腕の中で、私はパニックに陥っていた。
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