Open Heart〜密やかに たおやかに〜

「どうしてです。両方の時計がたまたま同じだからって、どうして時計のいうことを鵜呑みにするんですか? そういう機械なら信じるみたいな感性は、結構恐ろしい事ですよ」

すると、課長は自分の左手首にはめている高級そうな腕時計を見せてきた。
「俺の時計を見ろ。1時15分いや、もう16分だ」

「で、でも課長」
昼休みを過ぎても寝ていたことについて、何とかお咎めなしにしてもらおうと両手を擦り合わせて「でもですね〜〜」と粘ってみる。

「それに、あの壁掛け時計は、ソーラー電波時計だ」
シラッとした澄まし顔で、私の言い訳が効かないことを思い知らせるように、だめ出しをしてくる課長。

「それは〜初耳。いいですよね、ソーラー電波時計って、こう、くるくるって自分で時間を合わせちゃったりするから」

愛想笑いに切り替えた私に課長は、冷ややかな目を向けてきた。
「お前の昼休みは、人より15分も長いのか? それこそ初耳だぞ」

嫌味な言い方だと感じた。ひと言、『寝すぎ』で済むことなのに、ネチネチと女々しく思える。

「そんな言い方ってありますか? ただ、寝過ごしただけなのに。昨日、ちょっといろいろ立て込んでて、なかなか寝られなくてですね」

「…立て込んでようが、どうだろうが、お前の昼休みは1時までだ」
一瞬ひるんだように見えた課長だったが、どうやら気のせいみたいだ。

「わかってます。……以後、気をつけます」
課長の女々しい言い方には、かなりムカついたが、悪いのは私に違いない。
だから、頭は下げた。

なのに、私のデスクから離れながら課長は当たり前のような口調で言った。
「わかったら、今日は15分長く働け」

「そんな馬鹿な」

振り返らずに、また課長は念押ししてきた。
「わかったな、宮路」

残業?
全く毎日、嫌になる。

去っていく課長の背中に向かって
「課長!それより、これですよ。コレ弁償してくださいよ」
ひび割れたスマホを水戸黄門のドラマの紋所みたいに差し出す。

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