Open Heart〜密やかに たおやかに〜

私の出した決断が、合っているか間違っているかなんてどうでもいいことだ。

選択させたかのように見せかけて、実際のところ、私には選択権など少しもなかったのだから。


笑顔を見せた社長から勧めらるままにカニのお造りを食べようとする母さんが信じられなかった。

自分の親だとしても、すごく許せない気分になった。

母さんの膝の上に置かれた1億円の小切手。

たかが紙切れ一枚だ。そのたかが紙切れに私は負けたのだ。

借金まで綺麗にしてくれるという契約の代わりに社長が望んだことがあった。

1億円の小切手の存在をシュウちゃんには明かさないこと。

それは、当然だろう。シュウちゃんが知ったらきっと、大騒ぎになるはずだ。


「君が婚約破棄を言い出すのには、何かしらの理由が必要だ。秀之が簡単に婚約破棄に応じるとは思えないからね」

社長は、私が婚約破棄を言い出す理由までご丁寧に考えていたようだ。

絶対にシュウちゃんが、私を受け入れられない
理由。婚約を解消したくなるほどの理由を。


社長の話に母さんは、いちいち感心していた。
「さすがですね。考え方が一流だわ」
そんなことを言いつつ、出された料理を堪能する母さん。

息をするのも苦しくなってきていた。

私のことなのに、どこか違う次元の話に感じる。
どうしてだろう。
私は好きな人と一緒にいたかっただけなのに。

それをゆるされないなら、私はこれから何を糧にして生きればいいのだろう。



シュウちゃん、私は……
一体どうすれば良かったの?

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