Open Heart〜密やかに たおやかに〜

「宮路、山田課長と結婚するのか?」

シュウちゃんから私へ向けられた質問だった。

「……」
静かに顔を上げ、シュウちゃんを見つめた。

いつも大好きで、これからもずっと大好きな人。でも、私が選んだ道はシュウちゃんにとってもプラスになるはずだ。

シュウちゃんに似合いの人と結婚して、お兄さんと共に会社を盛り立てていく。それがシュウちゃんが成功出来る人生のシナリオに違いない。

私には、私に合った道があるのだから。私は軌道修正して私の歩むべき道へ帰るだけだ。

「はい。山田課長と結婚します」


少し目を見開いたシュウちゃん。

泣き出したくなくて、無理に口角を上げた。少し震えたけれど、私は笑えているはずだ。

「そうか。おめでとう……宮路」


おめでとう、宮路。
シュウちゃんの言葉が胸な突き刺さる。深くえぐられるような感覚をこらえるために私は唇を噛んだ。


「ありがとうございます。岡田……課長」

もう、シュウちゃんの唇は、私の名前の形に動くことが無いと思う。

シュウちゃん、どうして私はシュウちゃんと離れなければならないの?

一緒にいられないなら、私はシュウちゃんを知らない方が良かった。

すぐに諦めれば良かった。

シュウちゃん、私は貴方と会ったことは後悔してないなんて言えない。

好きになって、心から愛したことを悔いていないなんてカッコイイことは言えない。

今、私は色んなことを後悔している。シュウちゃんを愛したことは私の人生の中で一番の過ちだ。

愛しちゃいけない人だったんだ。

「じゃあ、急ぐので」
軽く会釈して歩いていくシュウちゃん。


遠くなるシュウちゃんの背中を見ていたら、自然に涙が流れていた。

「拭け。涙なんか見せるな。気づかれたらどうするんだ」
差し出されたハンカチを私は受け取らなかった。

「大丈夫ですよ。シュウちゃんは私を振り返らないから」

確信があった。シュウちゃんは、私を2度と振り返らない。

自然に私から離れていったシュウちゃん。シュウちゃんは、私が演技をしなくてもいいほどに遠い人になっている。そう感じていた。



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