A girls meeting


化粧もせずに、パーカーだけを羽織って自転車に乗り込んだ。


古びたスニーカーでペダルを漕ぎ始める。


そろそろ新しい物を買おうかいつも迷うが、まだ歩けると思うと油絵具のなくなりかけた色の事を思い出して、画材屋に足が向かうのだ。


そこまで考えて佑香はコバルトブルーの油絵具が補充しなければならない事を思い出す。


埼玉県の中では割と有名なスーパーの駐輪場に自転車を止めて、従業員専用の裏口から入るとダンボールを運ぶ従業員に遭遇した。


「ああ、篠村さん。ちわっす」


「こんにちは」


挨拶を交わし、壁に設置されているタイマーで配布されているIDカードを使用し到着した時刻を記入する。


デジタル数字が今の自分の存在している証拠になるのは、新しいアイディアに繋がるだろうか。


数字と現代の狭間に置いてかれた人間の苦しい生活と、渇望するほど求める自由……。


そこまで考え、佑香は頭の中でイメージをまとめていく。


部屋の中でただじっと座っている時には思いつかない。


何故働いている瞬間、要は筆を持っていない時の方が脳は勝手にイメージを作り始めるのだ。


そして家に帰り、筆を持った瞬間それまで考えていたイメージが一瞬にして消え去ってしまう。


ここ一ヶ月程その症状は続いていた。まるで、脳が佑香に絵を描かせないようにしているかのように。


ため息をついて、着替えを始める前に仕事用に作ったメモ帳に佑香は先程思いついたイメージを軽くまとめる。


家に帰ってから忘れてしまわないように。


しかし、ボールペンでまとめたイラストは筆で描いた物に比べてひどく陳腐に見える。


伸びが悪いのだ。


筆で描いた時はもっと、伸びる。筆はかすれながらも己の色を主張し、最後まで力強く生命の終焉を迎えるが、ボールペンは寿命が長くかすれる事もなく単調に同じ事を繰り返しながら、突然終焉を迎えるので佑香はボールペンで絵を描く事はあまり好きではない。


アルバイト開始の時刻まで後数十秒。


佑香は慌てて着替えをし、メモ帳とボールペンをポケットの中にしまい込んだ。


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