箱庭センチメンタル
「随分とお詳しいですね」
ついつい訝しんでしまうのも仕方がない。
じっと視線を寄越す私に、彼は抑揚をつけて説明した。
「ああ、まあ。目立つからな、この屋敷。散歩で通りががかるとつい目が行くっていうか、観察してて発見した」
「……そうでしたか。設備を見直さなければいけませんね」
真偽は定かではないけれど、とやかく言うつもりもなく。
納得しないながらも話を終わらせる。
「じゃあ、助かったよ」
案内を終えて別れる。
私は部屋へ戻り待機。
変わりない日常の異質な出来事、と言うことで幕を閉じる。
それだけだ。私はこの事実を抹消しなくてはいけない。
けれど、もの寂しい気になるのはどうしてだろうか。
目に焼き付けるように、彼の後ろ姿を見送る。
と、戸に手をかけた彼は一瞬停止して、こちらを振り返った。