S系御曹司と政略結婚!?
たったひとつ


よく晴れた平日の昼下がり、私は会社の最上階にある会議室でかの人物と対峙していた。

十人ほど座れる落ち着いた室内で、その人物に非難の目が向けられていた。


「……ということで、事実も聞かされましたし、あなたに何を脅されても私は屈しませんので。
たとえ週刊誌に売られても、最大限の力で記事を差し替えさせるし、何なら出版差し止めするから、……あまり見くびらないで?
あ、物的証拠もないよね?裁判沙汰になって有利なのはこちらサイド。——止めたほうが懸命ってこともアドバイスさせてね。
もちろん、あなたのいいようにされた和也にもおおいに反省する点はある。だけど、これは処分保留。
それより、人の弱みにつけ込んで脅すその行為が許せないの。その思惑も併せて教えてくれる……?」

最初は大人の話し合いを心がけていたけど、次第にヒートアップした私の口調は鋭くなっていた。

追いこまれた相手が逃げ込むところを先に潰すあたり、高校時代の秘技も廃れていないみたい。

ミステリー小説と現代小説を読み込み、主役の口調や態度を勉強したのもすべては今日のため。

これでも随分我慢したので、予定より詰め寄りすぎた件はご愛嬌にして貰おう。


——緊迫感漂うこの部屋に居合わせるのは、私の他にあとふたり。


「……華澄、言い過ぎだ。その辺にしとけ」

隣の席で静かに動向を見守っていた和也がそこで口を挟んだ。私はそちらを見やると笑顔で言い切った。


「ふたり分だから」

「俺のこと?」

「まさか、可愛い我が子のことですぅ」

つん、とそっぽを向くと、目立ち始めたお腹を優しく撫でさする。

この子の存在のおかげで、今どれだけ心強いか。——母は強し、これは本当みたいだね?

それと和也に言いたい。気遣ってくれたのは分かるけどね、この状況で相手も庇われた気がして癪に障るの……!


向かい側の席に座るのは、主もとい山内さん。彼女は私が話し始めてからずっとその剣幕に怯えていた。

泣く時ってそんな風に綺麗に泣けないよ?ずっと私を無視する度胸があったよね?キャラ変、遅くないかな?

だけど涙は流れないし、ハンカチで表情を隠すのも怪しい。しばし観察していると、一瞬ほくそ笑んだ彼女。


「山内さん、怯えさせてごめんなさい。綺麗に泣くんだね」

私が笑顔で伝えると、ぎくりと肩を揺らした彼女。予想は的中したらしい。

社内にはびこる不正と戦うサラリーマンの意地とプライドと正義の完全勝利。これぞ倍返しだ……!


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