S系御曹司と政略結婚!?
「華澄お嬢さま、早く起きて下さい。お時間ですよ?」
「……う~ん、……まだ、」
深い眠りから脱するように、と何度もユサユサと身体を揺すられた。それでもこの心地よさに抗えず、まだ起きられそうにない。
もぞもぞと手でシーツを探った私は頭ごと被り直し、再び安息の地へと向かおうとしたその瞬間。
「お嬢さまっ!」
今までとは比べ物にはならない声が室内に響き、勢いよくシーツまで剥ぎ取られてしまう。
その弾みで身体まで跳ね上がり、すっかり目も覚めた。そして、恐る恐るベッドの縁に立つ人物を見やる。
そこには少々の怒りをもって仁王立ちする家政婦の由紀子さんの姿が。鋭い視線を向けられている私は、ただただ苦笑い。
「お、おはよ~ございます?」
疑問符で挨拶をすると、ふぅと嘆息した彼女はようやく表情を緩めてくれる。
「おはようございます。今日もよく眠っておいででしたね。
お嬢さまの寝起きの悪さについては、それはもう重々承知しております。
ですが、いい加減ご自分で起きられるようになりましょう。成人されても変わらず、私は大変心配しております」
いささか呆れたような声で窘める由紀子さん。朝からどれだけの労力と無駄なストレスを掛けさせているかがよく分かる。
「……はい、すみません」
ベッド上で正座をしながらの謝罪なんて、まるで浮気現場を取り押さえられたようなもの。由紀子さんにとっては溜め息の数が増えるに違いないが。
「それより、お急ぎになって下さい。また旦那様のお怒りを買いますよ?」
「うわっ、それは勘弁……!今日もありがとう!」
はしたなくもベッドを飛び降りて準備を始めた私を見届けると、由紀子さんは静かに部屋を出て行った。