S系御曹司と政略結婚!?


華澄に見られていたとも知らずに、何て愚かな行為をしていたのだろう。

言葉を失くした俺に対し、井川さんは厳しい口調で追い打ちをかけてくる。


「社長と山内さんを見て……華澄ちゃんは……ひっ、引き返す途中で倒れたんです!傷ついた顔でっ、泣きそうで……!」

嗚咽を漏らしながら話す彼女は、華澄の代弁をしているようだ。

頭をバッドで殴られたような衝撃を受けた俺は、目の前のベッドで今もなお目を閉じたままの華澄を見やる。

抜けるような白さの頬には血色がなく、涙跡だろうか化粧も少し取れていた。

ようやく信頼してその気持ちを直接伝えてくれたオマエの心を、俺はどれだけ傷つけてしまったんだ……?

あれが最低な行いだと分かっていたはず。いや、そもそも結論が間違っていた。

大切なものは華澄以外ない。だったら、なおさら選ぶべき答えではなかったのに。


「失礼を承知でお聞きします……。社長は華澄ちゃんのことを愛していらっしゃいますよね!?
じゃなきゃっ、あんな裏切りっ、ない、ですよっ……!」

思いの丈をぶちまけると、床に崩れ落ちて泣きじゃくっている。自分の立場も省みず、華澄のために戦ったのだろう。

「ああ、そうだな。……ごめん」

絞り出た声はじつに情けないもの。先に謝るべき人がすぐ目の前にいるというのに。

どろどろとした暗い感情が渦巻くものの、それでも今はまだ話せない。

あれが“取引”だったことも言えない。……どちらにせよ、二人を傷つけた事実は変わらないが。

——あの山内なんかとキスをした事実も消えないのだから。


“後悔先に立たず”先人の言うことは尤もで、今がその状態に陥っている。

どんなに過去に戻りたくても取引前には戻れない。結果的に華澄をひどく傷つけたのだ。

すすり泣く声も止んで井川さんが立ち上がる。しかし、あれから一度もこちらを見ようとしない。

どんより重い空気が充満した部屋の扉がノックされる。そして現れたのは医師と看護師だった。


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