エースとprincess
「それはご期待に添いかねるかと」

 なおも近づいてくる。それが、やけにゆっくりにみえる。
 近づいてきたことで、ふと気づいた。同じ部屋にいながら、これまで瑛主くんは私と一定の距離を置いていたってことに。

 ひとり暮らしの男の部屋にあがってしまった私を不安にさせないように、あえて離れていたのかもしれない。飲み会のあとで、多少はお酒が入っているのにちゃんと理性的な一面が残る人なんだなあ。

「そうかな」
 と、瑛主くんが私の顔を覗いた。彼はすぐそばにまできて、座りこんでいた。

「期待しちゃ、いけない?」

 お風呂あがりの匂いがしていた。私と同じなのか、私が同じなのか。さっきまでどこを見たらいいのかとさまよっていた私の視線は、今では揺るがずに瑛主くんの瞳を捉えていた。
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