傷痕~想い出に変わるまで~
今は光のために門倉に気持ちを伝えるのはやめておこう。

もしかして離れたら門倉には新しい恋人が見つかるかも知れない。

それを咎める権利なんて私にはないし、2年待ってくれというつもりもない。

せめて3回忌が終わるまで他の人と恋をしないというのは私の自己満足に過ぎないんだから。

「今は言わない。」

「なんだよ。答出てんじゃん。じゃあ2年間俺にもあいつを偲ばせろ。まったく知らない仲じゃないしな。なんてったってライバルだし?」

もし光が生きていたら門倉と仲良く酒なんか酌み交わすだろうか?

火花がバチバチ飛び散る修羅場になったりなんかして。

「光、門倉に偲ばれて喜ぶかなぁ…。」

「バーカ。あいつとおまえを引き合わせたのは俺だっつうの。きっと俺に感謝してるだろ。それにさ、あいつを大事にしたいっておまえの気持ちも、おまえのこと好きなあいつの気持ちも、俺は大事にしたいんだ。」

「ん…ありがとう。」






月末、門倉は企画一課を去った。

“ちょくちょく戻って来るからな”と私に言い残して。

パーテーションの隙間から見える一課のオフィスに門倉はもういない。

喫煙室にも社員食堂にもいつもの居酒屋にも。

コーヒーを買いに行くと二十代半ばくらいの若い男性が自販機の補充に来ていた。

光ももうこの世にはいない。

大切な人との別れはいつも寂しい。

だけど今、私の心は穏やかだ。

つらかった過去を何度もくりかえし思い出していた頃のように悲しさや虚しさが込み上げたりはしない。

大丈夫。

私は前を向いて歩いて行ける。






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