鬼上司は秘密の恋人!?
 
「いやです。我が儘になって幸せに慣れてしまったら、手放すときが辛いから。ずっとここに居られないってことは、ちゃんとわかってるから、そうやって甘やかして期待させないでください」

必死に涙をこらえながらそう言うと、目の前の石月さんの顔が歪んだ。

「……期待させてるのはどっちだ、バカ」

苦しそうな、かすれた低い声でそう言う。

「石月さん……?」

目の前の彼の目が熱を持つ。
ふたりの間の空気の密度がぐんと濃くなる。

思わず息を飲んだとき、背後でかたりと音がした。
はっとして振り返ると、祐一が寝ぼけて目をこすりながら、和室を区切るふすまのところに立っていた。

「トーゴ……?」

リビングの石月さんの姿に、一気に眠そうな目が真ん丸になる。

「トーゴ! 帰ってきたの!?」

祐一はぱあっと顔を輝かせ、裸足の足でぺたぺたとフローリングを走りながら石月さんに飛びつく。

「おー。今日誕生日だったんだな。おめでとうチビ」

すごい勢いで飛び込んできた祐一の体を抱きとめて、優しく頭を撫でてあげる石月さん。
そんなふたりを見ながら、私はほっとして肩をおろした。

「誕生日になんかほしいもんあるか?」

石月さんに抱き上げられた祐一は、その言葉に少し首を傾げる。
そして私には聞こえないように、そっと石月さんに耳打ちをした。

祐一がなにか我が儘を言ったのか、石月さんは少し困ったように笑っていた。


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